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BOUNDHEAD

アメリカでは人智学の模造品が作られている
前回の投稿で「近代に英語圏の人びとはゴーストという古代語をスピリットという言葉に置き換えた」という趣旨の話をしました。




攻殻機動隊の草薙素子は「私のゴーストが囁くのよ」という名台詞を吐きましたが、今の英語圏の人びとは、彼女が「私のスピリットが囁くのよ」と語ったなら、もっと簡単に理解できたでしょう。そういうわけで、彼らには「彼女が言うゴーストとは何だ?」という問いが生じます。

ちなみに最近英語圏の若い人々が、ghostという言葉を動詞として使うようになったようです(相手と「音信不通になる。交流を断つ」というような意味)。

こんにちの英語圏ではボディ・アンド・ソウルという言葉が当たり前すぎて、まさにローマ・カトリックがキリスト教に持ち込んだ「改変」(三分節から二分節へ)は、長い時を経て、特に英語をしゃべっている人々に、もっともローマ的な影響を、「霊」を指す古語を消失させることで、及ぼしたのだということもできます。

アメリカ人が霊的事象を「物質界的比喩によって表象しようとする強い衝動」を持っていることは、往年のホラー映画などを見るとよく分かります。

以下、シュタイナーの発言の抜粋をご紹介します。

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注意深くアメリカの本を読み、注意深く国会演説を聞くと、今日(今から100年前)アメリカで起こっていることが理解できます。「おやまあ、こりゃたまげた。まったく奇妙なことだ。ヨーロッパでは、精神から人智学が形成されている。アメリカでは人智学の模造品が作られている」と、思われます。その模造品は、すべて唯物論になります。アメリカ文化はヨーロッパの人智学に似たものを有しています。ただアメリカでは、すべてが模造品で、まだ生命的ではありません。ヨーロッパでは、精神によって人智学を生命的にできます。アメリカでは、人智学を本能から取り出します。

このアメリカの模造品が語りはじめるときが、いつかやってきます。そうなったら、ヨーロッパの人智学によく似たことを語るでしょう。「ヨーロッパでは、精神的な方法で人智学が形成される。アメリカ人は人智学を、自然な(本能的な)方法で形成する」と、言うことができます。ですから、私は人智学を説明するときに、「これは人智学的です。それはアメリカ的な戯画です。人智学の戯画です」と示唆できます。

(人智学の)狂信者は、「内的ないとなみ」をとおしてではなく、熱狂的に(外面的に)人智学に親しみます。そうして(人智学の)狂信者は、アメリカ主義を強烈に罵ります。人間が猿を罵倒するのは、猿が人間に似ているからです。これは漫画です。「ヨーロッパで精神的に達成されるもの」と、「アメリカで自然な(本能的な)方法で達成されるもの」とのあいだには、北極と南極のような差異があります。

アメリカの自然科学の本は、ヨーロッパの自然科学の本とはまったく別物に見えます。アメリカの自然科学の本は、絶えず霊について語りますが、霊を粗雑に物質的に表象しています。ですから、近代の心霊主義はアメリカで発生したのです。心霊主義は何を行っているのでしょうか。霊について語り、霊を雲のような現象だと思っています。すべてが雲のように現れてほしい、と思っているのです。ですから、心霊主義(スピリチュアリズム)はアメリカ製です。心霊主義は唯物論的な方法で、霊を研究します。

アメリカでは、精神への途上で、唯物論が猛威を振るっています。ヨーロッパ人は唯物論者になると、人間としては死にます。アメリカ人は若い唯物論者です。本来、子どもは最初、みな唯物論者です。そして、唯物論的でないものへと成長していきます。そのように、アメリカの極端な唯物論は、太陽が水瓶座から昇るとき、精神的なものへと成長していくでしょう。

このように、ヨーロッパ人がどのような課題を持っているかが分かります。アメリカ人を罵るのがヨーロッパ人の課題ではありません。ヨーロッパ人は、最良のものから構成された文明を、全世界に築かなくてはなりません。

アメリカ的なヨーロッパ人であるウィルソン大統領に一杯食わされた、バーデンの王子のようにものごとを考えると、うまく行きません。ウィルソンは生粋のアメリカ人ではありません。彼の理論(民族自決主義)は本来、すべてヨーロッパから受け取ったものです。そのために、彼は不毛な理論を作りました。真性のアメリカ主義が、精神的な方法でものごとを見出すヨーロッパ主義と、いつか結び付くでしょう。このような方法で研究すると、世界でどのように行動すべきかが分かります。(『色と形と音の瞑想』P46-P52)

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「現代人はみな悪徳商人になる傾向があります」とシュタイナーは語りました。私はトム・ソーヤー商法(壁塗りエピソード参照のこと)という言葉を創作して、かつてこのブログでも使ったことがあります。その時同時に「うっかり八兵衛商会」という言葉も作りました。「現代はトム・ソーヤーのようなコンマン(con man)が社会システムからの圧力によって大量発生するしかない状況になっている」と思います。悪徳商人というより、価値の取引において、人々を香具師の口上みたいな言葉遣いをする宣伝家ばかりにしたというほうが実態に近いでしょうか。「その技術」を人々は「一か所に大量に人々を集める」ために駆使しています。「われら自覚なき悪徳商人たち」はそうやって、「場所提供者」の作ったゲームルールに則って(場所提供者たちは「もっと大きな顧客」のためにそういう場所を作ったのですが)「プレイヤー候補者たち」として集められ、一か所に耳目を大量に集めるという「作業をやらされている」のでした。巨大な胴元たちは、プレイヤーたちが、メタ次元に出て自分のやっていることに「道徳的疑問」を感じないように金銭的インセティブを与えています。

そういうえば『悪の秘儀』でシュタイナーは「アーリマンは(彼がばらまく思想の)賛同者を集めることに躍起になっている」と書いてましたっけ。彼は一方で、「人々はバラバラな集団に分裂していき、その集団も内部分裂し、やがてそれぞれが集団の中でひとりになる。そして最後は一人の人間が右の人と左の人に分裂して争うようになる」と不思議な話もしていましたね。

「ロスト」という北米人気ドラマにはトム・ソーヤーという偽名を名乗るキャラクターが出て来ます。彼はコンマン、つまり詐欺師でした。彼が自分のことをトム・ソーヤーと名乗ったのは、少年時代に彼の両親がトム・ソーヤーと名乗るコンマンの餌食になり、彼の目の前でピストルを使って心中し、その衝撃的な思い出を胸にその復讐心を忘れないために同じ偽名を使うようになったのでした。もちろんこれはシナリオ担当者がこのドラマにおいてはトム・ソーヤーという有名な児童向け小説のキャラクターを「詐欺師の象徴」として翻案したからです。コンマンをやっている自分に自覚がない無邪気さこそ、こんにちのわれわれの精神状況を表しています。それでも未来に人々が(シュタイナーの表現によれば)、「苦い目覚め」を自覚するときも来るのでしょう。
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