忍者ブログ

BOUNDHEAD

稲川淳二は偉大なる語り手である
『ほんとにあった! 呪いのビデオ』シリーズがビデオ・レンタル界に持ち込んだ映像の提示方法は当初は非常に斬新でした。しかし彼らがこの世界に持ち込んだ「ドキュメンタリー(ノンフクション)風のフィクション」は、その後他の同業者たちから幾度も模倣され、最近ではほとんど見る価値のないような、ひどい作りの作品群の粗製濫造状態にいたってしまったように見えます。

商業用のドキュメント系ホラーものも、あまりにウソくささが目立つと逆に見ているうちに段々と腹がたってきて、「ほんまもんの幽霊さん、あの〈内心ではホラーを馬鹿にしながら商売だからというんで作っている連中〉を私生活でおどしてやってください」と呪いの言葉も吐きたくなります)。また物語系ホラー作品の方も、フィルム表現上のさまざまな手法があらかたためされて、こちらも一種の平衡状態になってしまっているのではないでしょうか。(ただし最近見た映像としては『超怖い話TV完全版Ⅰ~Ⅲ』がオススメ、これはいいですよ。)

「最近なんかつまらないなあ」と思っておりました。そこで私は、活字の方へシフトして『新耳袋』全10巻を読み直すということをしていたわけですが、ここで「そうだ、語りだ」と思ったのでした。『新耳袋』の内容のいくつかは『怪談新耳袋』として映像化されて、DVDになってレンタル店にも並んでいます。DVDの特典映像には、編者の木原浩勝と中山市朗の「怪談語り」がおまけとして収録されていますが、正直言ってあまり上手な(あるいは魅力的な)語り口とはいえません。そこで、はたと思いつきました。

「そうだ、怪談語りといえば、稲川淳二ではないか!」

「怪談語り」といえば、日本には落語の伝統がありますが、稲川淳二が作り上げた近代スタイルはいまだ他の後続の語り手を寄せつけません。稲川淳二は彼独自の「怪談語り口の芸風」を確立してしまいました。

稲川淳二の語り口の魅力を超える語り手は今のところいないのではないか、と思います。この人は昔、「ぼこぼこにされる平身低頭レポーターキャラ」でお茶の間に出てきて、視聴者に指さされてヘラヘラと笑われなければならぬという「立ち位置」を甘受しながら、その実、偉大な才能の持ち主だったのでした。

私は昔、『稲川淳二の超こわい話』シリーズの1巻と2巻と3巻、そして『生き人形』『怪談ライブ』を、これらのビデオがレンタル店にならんだ当時に借りて見ているのですが、その後は遠ざかっていました。最近では『恐怖の現場』というのを見たことがありましたが、これは「語りもの」ではありませんでした。そこで地元のレンタル店で改めてチェックしてみると、『稲川淳二の超こわい話』シリーズはすでに10巻出ていました。欠番があったので、方々のレンタル店----お隣の日向市にも探しにでかけました----を探しまわりながら、私は「3月は稲川淳二月間にしよう」と決め、この『超こわい話』シリーズ10巻を制覇し、『生き人形』その他、以前に借りていなかったものも含め、かなりな数を借りて見た(聞いた)のでした。この活動は現在も続行中であります。

『超こわい話』シリーズの初期のものを見ているうちに気がつきました。ここで語られているエピソードの多くが、実は『新耳袋』に採録された話とかぶっているのです。ビデオの中で稲川淳二が、「実は中山という男がいるんですがね……」などと紹介している人物こそ『新耳袋』の編者のひとりである中山市朗だったんですね。

『新耳袋』という本は大ヒットしましたが、先駆者として同書の中身を「語りもの」にして、それよりずっと前に「肉声による語り」を行っていた稲川淳二という人物がいたのでした。こんなふうにして、私のなかで『新耳袋』と稲川淳二が結びついたのは最近のことだったので、いまようやく「そうだったのかあ」と感慨にふけっているところであります。

ということで、中山市朗と稲川淳二の関連リンクを左のサイドバーに掲示しております。ネットでも稲川淳二の『超こわい話』シリーズの初期作品はPPV方式で見ることができますよ。実は私も見たクチです。『怪談新耳袋』の初期シリーズ(こっちはすでに販売終了)と『稲川淳二の恐怖物語1』を見ました。その私が利用したgooを紹介しておきます。ここはShowtimeのように、別に見たいものがなくても、会員料(基本料金)を毎月払い続けなればならないという方式ではないので、利用しやすいです。Showtimeもgoo方式にしてくれれば、私ももっと利用するんですがねえ 。

http://bb.goo.ne.jp/movie/program/inagawa/00/index.html

このシリーズは完全DVD化されていないようなので、10本をDVD5枚組のボックスセットにするとかいうような企画を掲げて是非全巻DVD化してほしいところでです。あるいはgooが10巻すべてをネット化するというのでもいいですね。

ちなみに私の大好きなエピソードは『超こわい話』第3巻の「…からの電話」であります。(是非近くのレンタル店で借りてみてください。ただし、稲川淳二のものに限らずビデオ自体がDVD化の波で処分されているところが多いと思うので、稲川淳二の『超こわい話』シリーズ10巻のビデオ版が見つかったらかなりラッキーですよ。)

『超こわい話』シリーズとは異なったビデオには、同じ話が違う題名になっているものもあるので、このあたりも自分なりに整理中です。いずれ報告もできるかもしれません。

inagawa_l.jpg









p.s.1「語り芸」と言えば稲川淳二です。でも彼の口調をそのまま活字に起こして読むと、何か全然違うモノになっちゃうのが不思議です。歌手の肉声を譜面に起こして、その譜面のみを眺めているような感じになっちゃうからでしょうか。逆に「活字芸」と言えば、やはり新耳袋でしょうか。それぞれ特性が異なっていますが、どちらも「芸」として一級品だということは確かです。

p.s.2 「ほんとにあった! 呪いのビデオ」では投稿がそろわない場合は「発注」による制作も行われているそうです。その場合、無名の、とはいえプロの役者さんが出るわけですね。ですが、すべてが「ヤラセ」ではないそうで、投稿映像をそのまま使うことももちろんあるそうです。ただ採用された投稿映像が投稿者作成によるフェイク映像である場合も多いでしょう。だから、なんでこんな映像が撮れたのか解釈不能な映像の実数はそれほど多くないというのが「ほんとう」のところでしょう。でもこのシリーズが出始めたころは、「ほんとう」に怖がらせていただきましたし、今でもこの手のコンテンツではこの会社の作品が一番であることは言うまでもありません。

参考 呪いのビデオのスタッフだったけど質問ある?
PR

コメント

コメントを書く